◆第一章 閉鎖病棟の一室~冥界

ベッドの上で目覚める少女。なぜここにいるのか、何があったのか一切の記憶がない。
解っているのは、胸に抱いているリュックの中身が、自分にとってとても大切な物だということ。それなのに、医師もナースもリュックを取り上げようとする。怯えて抵抗する彼女の前に、一人の男性が現れる。医師の手からそれを取り返し、そっと戻してくれる男性の優しい微笑みに釣られて、彼女が自らの手で開けたのは、死の世界、冥界への扉だった。

行きつく果てが冥界だとはつゆ知らず、「死神」に誘われるままに踏み出した死への道。
「あっちへ行こうよ、キレイなものを見せてあげるよ」甘いお菓子に惑わされる幼子のように、不安と期待に胸を膨らませて、歩みを進める主人公。
「現実世界に未練はない。だってわたしはいつだって、ここから消えてしまいたかったのだから」
世界からの消滅を切望していた彼女の魂は、無意識に冥界に引っ張られてゆく。死神に誘われ、戸惑いながら冥界の道を行く主人公と、あの手この手で彼女を奥へ奥へと導いてゆく死神。少しずつ高揚感を感じ始めた主人公。と、そこへ、一陣の風が吹く。

◆第二章 地上の名残~支配する宇宙

冥界の奥へ奥へと進み続ける主人公。彼女の足を止めたのは、強烈な一陣の風だった。気付けば死神の姿はなく、彼女はひとり、雨の降りしきる森の中に佇んでいる。雨や風、雷の音。風にあおられてしなる枝の軋みや、地鳴りのような豪雨を受け入れて悠然と佇む岩々の雄大さが、「地球の化身」である自然神によって表現される。地球という星の美しさ、本来の姿を垣間見て、ほんの一瞬、我に返る主人公。そしてシーンは地球から宇宙へ。創造のゲームを楽しむ「万物を統べるモノ」が、チェスの駒(アンサンブルダンサーたち)を前に遊びに興じている。彼の手ひとつで、体の動きをコントロールされる主人公。あまりに壮大でリアルなゲームが、彼女たちが必死で生きているこの現実世界なのだ。
すべては万物を統べる「神」の手によって、決められていることなのに…
「支配されている」と思い込み、受け入れられない事実から目を背けるようにその場を抜け出した主人公は、現れた死神と共に、再び冥界への道を歩き出す。

◆第三章 冥界~狂気の饗宴

辿り着いた冥界は、狂人たちの終わらない宴の真っ最中。皆に担がれ、輪の中心へと押し出された主人公は、我を忘れて彼らと戯れ、めくるめく狂乱の世界へ身を落としてゆく。が、気を許したその瞬間、楽し気に見えていたその場所が、徐々に色を失い温度を失い、瞬く間に灰色の「死の世界」の片鱗を見せ始める。すべてが凍り付き、荒涼とした氷原に投げ出された主人公が、寒さに震え気を失いかけたその時─。艶やかな着物を身に纏い、悠然と現れた一人の女が、一瞬にして世界に「色」を取り戻す。凍える主人公の手を取り、優しく微笑んだその“女”は、男に愛され男を惑わす為に美しく着飾った、主人公の母親だった。

◆第四章 核心との対峙~冥界からの帰還

現実世界で避けてきたもの、最も主人公を苦しめていたもの。それは自身の「女性性」。
母に愛される娘でいるには、女になってはいけないから─
けれども今、目の前で妖しい色香を振り撒いているのは、紛れもない彼女の母親だった。見たくない、母親の中の「女」、否定し続けてきた自分自身の「女」の部分。その化身が、美しきモンスターとして主人公の心を巣食う彼女である。逃げても逃げても絡め取られ、惑わされ、罪の意識と絶えない苦痛の中で葛藤を強いられる。舞台には、「女性の性」を象徴するような真っ赤な花びらが舞っている。気が付けば、病室に置いてきたはずの黒いリュックを、主人公は手にしている。母親そっくりの“女”の化身が、大切なそのリュックに手を伸ばそうとした瞬間… 目が覚めると、そこは元いた病室のベッドの上だった。

◆第五章 再び冥界へ~再生

叫び声と共に目覚める主人公。そこは、元いた病室のベッドの上。夢だった…と安堵したのも束の間、ふと、傍らに置かれたリュックの中身が気になり、恐る恐る開けてみると、中に入っていたのは、四章で「女性の性」を象徴するように、“女”の化身の周りに舞い散っていた花びらの山。後生大事にこの手で守ってきたものが、何よりも自分を苦しめていたなんて…。絶望と恐怖から発狂寸前の主人公を、一人のナースが抱きしめ、諭す。
「大丈夫」
そう告げるナースがそのままアテンド役となり、主人公は再び冥界へ舞い戻る。死神も現れ、再び自分の中の核と対峙する時を迎える。気が付くと、あれほど嫌悪していた“女”の化身として舞っているのは自分自身。母に見えていたかつての化身は、彼女の娘として、無邪気な微笑みを投げかける。葛藤の末、自らの性を受け入れ母となる覚悟を決めたその瞬間、あれほど恐怖の対象だった「女」という自身の性が、天からの美しいギフトだと気付く。汚れる気がして触ることすら憚られた花びらを、歓喜と共に撒き散らす主人公は、自らの呪縛から解かれ、ひとりの女性として自由の中で軽やかに舞う。ラスト、万物を統べるモノは、彼女を見ながら「チェックメイト」と言って遊びを終える。

ベッドの上で再び目覚めると、そこには「死神」として彼女に連れ添っていた男性の姿が。夜通し、傍でうなされる彼女に付き添っていたらしい彼は主人公の恋人。肌身離さず抱えていたリュックを、彼女は初めて恋人の男に預ける。それは、これまで一人で背負ってきた重荷を、そっと下ろせた瞬間だった。